【プロが解説】離乳食冷凍のきほん

離乳食

生後5~6か月を過ぎると始まる離乳食。子どもにごはんを作ることは大きな喜びですが、お世話が大変ななか毎日用意をするのは大変です。

そんなとき、離乳食を一度に作っておけば大変便利。

本記事では、そんな離乳食冷凍の「きほん」を、方法、栄養、衛生、便利グッズなどのポイントから紹介します。

1. 離乳食は冷凍できる、けど……

家庭で調理した離乳食は「初期」「中期」「後期」「完了期」すべてのものを冷凍することができます。
方法はいたってシンプル。以下のステップで行いましょう。

【離乳食冷凍のためのステップ】
① 調理する(一般的な離乳食の調理方法でOK)
② 冷凍用の容器に入れる
③ 予冷する
④ 冷凍庫に入れて冷凍する
⑤ 食べる前には必ず加熱する

おそらく、①②④はできているご家庭が多いかと思いますが、「③予冷する」「⑤食べる前には必ず加熱するはきちんとできているでしょうか。
なかには、離乳食を作って冷凍容器に入れたまま、冷めるまでそのまま放置というご家庭も多いのではないかと思います。
しかし、これは衛生上とっても危険なことなので、やってはいけません。夏場はとくに注意しましょう。

冷凍容器に入れた離乳食は、常温で放置せず、以下のような方法で予冷をすることをお勧めします。

・冷凍庫にそのまま入れる
・冷蔵庫に入れる(チルド室が空いていればチルド室へ)
・保冷バッグに大きめの保冷剤と共に入れる

予冷時間の目安は30分程度です。粗熱がとれたと思った段階で、冷凍庫に移して冷凍しましょう。

本当は調理したばかりの段階で、冷凍庫や冷蔵庫にそのまま入れるとよいですが、熱い食品を冷凍庫や冷蔵庫に入れてしまうと、周囲の食品が溶けたり、傷んだりしてしまいます。

そのため、おすすめは「冷蔵庫のチルド室」と「保冷バッグ+保冷剤」。

チルド室は本来は傷みやすいお肉やお魚を入れる場所です。温度が約0~3℃と低温に設定されていて、ほかの冷蔵室とは別室になっていることが大半です。
チルド室は、お肉やお魚を冷蔵室に移してしまえば、何もない空間として使うことができます。
ここに調理したばかりの熱い食品を入れれば、ほかの食品に影響を与えることなく、早く粗熱をとることができるのです。

チルド室ほどの粗熱とり効果は期待できませんが、保冷剤を入れた保冷バッグも、ほかの食品に影響を与えないという点でおすすめです。

予冷は冷凍食品の製造過程で欠かせない工程で、製造現場では「チラー」という予冷専門の機材が使われます。
これは製造した食品の食中毒を防ぐために欠かせない工程です。家庭でも冷凍前にはきちんと粗熱をとって予冷し、赤ちゃんの健康を守りましょう。

また、これだけ万全な対策をしても、食品の衛生状態に過信してはなりません。
食べる前には電子レンジや鍋で必ず加熱して解凍し、冷めたらすぐに赤ちゃんに与えましょう。

2.冷凍離乳食と赤ちゃんの食中毒

なぜ赤ちゃんの離乳食を冷凍する際には「予冷」が必要なのでしょうか。
実は、安全性から考えれば、大人が食べる食品を冷凍する際にも可能なら予冷をしたほうがよいのです。

予冷は、食品中の微生物や菌の増殖を抑えるために行います。
下のグラフを見てわかるとおり、温度が30~40℃の常温帯にあるときはもっとも微生物は増えやすく、温度が下がれば微生物は増殖を停止します。逆に高温帯で加熱すれば、死滅します。


食品はマイナス温度のときに「冷凍」状態になりますが、これは微生物や菌の増殖がストップした状態です。冷凍しても殺菌できないことは必ず覚えておきましょう。

要は、冷凍前に傷んだ食品は、解凍したときもやはり傷んでいます。

大人は体が成長して抵抗力が強いため、少し傷んだ食品を食べても平気ですが、抵抗力が弱い赤ちゃんや子供、病気や投薬で抵抗力が落ちている人は食品中の微生物や細菌が増殖していると、食中毒になりやすいのです。

哺乳瓶を使う前に必ず消毒をするのはこのためですね。

「うちは哺乳瓶を消毒しなくても大丈夫だったよ!」「兄弟姉妹の離乳食は常温で粗熱をとって冷凍してたけど、お腹下したことなんかないよ」という人もいることでしょう。

これは、運が良かっただけです。

赤ちゃんも、元気いっぱいで抵抗力が強いときもあれば、具合が悪く抵抗力が弱いときもあります。
また、生まれつき体が強い赤ちゃんもいれば、体が弱い赤ちゃんもいます。

赤ちゃんはまだお話しができないので、健康状態が分かりにくいもの。
たまたま具合の悪いときに、菌や微生物の増殖した離乳食を与えてしまい、赤ちゃんが食中毒になってしまった! という事態を避けるためにも、必ず予冷を行いましょう。そして、食べる前には必ず一度過熱を行うことも忘れずに。

・調理後は食品の温度を下げる
・早めに冷凍まで完了する

・食べる前には必ず加熱解凍する

この3つは赤ちゃんの健康を守るためにとても大事なポイントです。

3. おいしく冷凍するためのコツ

「料理は冷凍するとおいしくないから、離乳食も冷凍はやめよう」と思っている人もまだまだま多いのではないでしょうか。

それは、とてももったいない考えです。

基本的なルールを守れば、料理は味や食感を落とすことなく冷凍することができます。
上手な冷凍方法を身に着けて、手間を省いて時間にゆとりをもちましょう。

① できる限り水分にひたして冷凍する

「冷凍食品はパサパサしていて変な味」と思っている人は、冷凍中に乾燥・酸化してしまった食品を食べた人です。
冷凍品は非常に乾燥しやすい性質をもっているため、保存方法を間違うと、パサパサして味が変わりやすくなります。

離乳食を冷凍する際には、できる限り食品を水分にひたして冷凍するようにしましょう。



離乳食初期のペースト状の食品は水分が多く含まれており、冷凍に理想的な状態です。
そのまま製氷皿型やブロック型の冷凍保存容器に入れて冷凍すれば、問題ありません。

離乳食中期以降の刻み食については、保存する際にスープやだし汁に浸して冷凍すると、解凍した際においしく食べることができます。

② 袋に入れて空気を抜く

離乳食後期ごろになると、つかみ食べが始まるようになるため、すべての食材を水分に浸すことができなくなります。
お好み焼きやおにぎり、蒸しパンなどは、水分にひたすと食感が台無しになってしまいます。

このような食べ物を冷凍する場合は、冷凍保存袋に入れて、できる限り空気を抜いて冷凍しましょう。

冷凍された食品は、食品の周りに空気があると空気に向かって水分が蒸散します。
空気を抜けば、周りに空気がなくなるため食品の乾燥を防ぐことができます。
冷凍食品で真空パックされたものが多いのは、このためです。

ただ、家庭用の食品は真空パックは難しいですし、少しずつ使う場合は真空保存できません。
そのため、汁気がなく袋に入れて保存するものは基本的に1~2週間で消費するようにしましょう。

冷凍保存袋に入れた食品は長く冷凍していると、袋や食品の周囲に霜ができます。
これは、蒸散した食品の水分です。霜がついていると、基本的に味や食感が劣化していると理解してかまいません。
霜がつく前に使い切るようにしましょう。

また、離乳食後期以降に薄く味付けができるようになってからは、調味料で味付けをすると、塩や砂糖には保水の機能があるため、乾燥しづらくなります。

味付けが可能な食品の場合は、素材そのままの状態よりも調理が完了した状態で保存するとよいでしょう。

4. 上手に使うためのコツ

離乳食を冷凍する際には、「当日の調理を楽にしたい」と考えて冷凍するはずです。
そのため、解凍の際に調理に手間取るようでは、冷凍した意味がありません。

後工程を楽にするために、冷凍する前から上手に使えるように工夫しておきましょう。

① 小分けにする、薄く延ばす

離乳食は冷凍する際に1食ずつに小分けして冷凍しましょう。
製氷機タイプや、カップタイプの離乳食保存容器は、小分けにする際にとても便利です。

また、小分けが難しい食品を袋に入れて冷凍する際には、パンパンになるまで詰めずに、少量を入れて薄くのばして冷凍しましょう。
薄く延ばせば、後で手で折って必要量を取り出すことができます。

食品は、凍ると大変硬くなります。
水分が多い食品は、自分では薄く延ばしたと思っても容易には折れない硬さになります。
水分が多い食品の厚さは3mm程度を目安にしましょう。

刻んだ野菜などでも、詰めすぎると手で折ることができない強度になるので注意が必要です。

「冷凍保存袋がもったいない」という気持ちは静めて、ひたすら薄くのばしましょう。

② 冷凍に向かない食材は避ける

冷凍用に調理する際に、離乳食に向かない食品は避けるようにしましょう。

食品は、その性質から冷凍に向かないものがいくつかあります。

【1】避けるべき食材:ゲル食品

離乳食用の冷凍の要望が高いにも関わらず、冷凍に向かない食品の代表格が豆腐です。

豆腐はゲル食品と呼ばれるカテゴリの食品で、食品が凍った際にその食品内にできる氷の粒の形のまま食品が固まり、解凍しても元に戻ることができません。
そのため、解凍しても水と分離してボソボソとした食感になってしまいます。

ほかにも、ゼリーやかまぼこ、こんにゃくなどは同様の性質を持っているので、冷凍する食品には入れないようにしましょう。

この性質を利用して作られるのが「凍みこんにゃく」「高野豆腐」で、ゲル食品を冷凍するとこれらの食品のようになると考えればよいでしょう。

【2】避けるべき食材:生の根菜(※刻めば可)

離乳食づくりにはあまりないケースかと思いますが、生の根菜を大きな塊で冷凍することも避けるべきです。

根菜はゲル食品と同様に、冷凍した際に食品内に氷の粒ができた際に繊維が押し分けられると、解凍した際に元に戻らない性質があります。
冷凍・解凍した根菜の食感は、水分が少なく筋ばったものになります。

ただ、根菜は加熱して繊維を柔らかくすれば繊維が固定されることはありません。
また、生の野菜を冷凍する場合でも、食感が分からない程度に薄くしたり、細かくきざんでいれば問題なく冷凍・解凍できます。

5.市販の冷凍食品の活用もおすすめ

離乳食を冷凍するにあたって、最初から調理された冷凍離乳食を活用したり、市販の冷凍食品を使って上手く調理を効率化することもおすすめです。

市販のうらごし野菜キューブなどは、途中まで調理を行った状態で1食ずつ冷凍されているため、毎回の食事の際に非常に使いやすくなっています。
また、スーパー等で売られている冷凍野菜などは、少量ずつ使いやすく長く保存されるため、たくさんの品目を少量ずつ食べなければならない赤ちゃんの料理にぴったりです。

ゲル食品で冷凍が難しい豆腐についても、通信販売・宅配などではキューブ状のバラ冷凍された豆腐が売られています。
この商品は、原材料や冷凍工程に工夫が凝らされているため、解凍しても食感がボソボソになりません。

離乳食づくりにゆとりを持つため、食材を無駄にしないためにも、冷凍品は積極的に取り入れていきましょう。

6.冷凍品や市販品は栄養がイマイチではない

冷凍品や市販の離乳食に抵抗感を覚える方も少なからずいらっしゃるでしょう。
その理由の一つに、冷凍品や市販品では栄養が不足するというイメージがあります。

これは正しくありません。

食品は冷凍をするとその時点で栄養の減少がストップし、保存中もほぼ失われることがありません。
そのため、購入して保存中に鮮度が落ちた食材よりも栄養価が高いことが多いのです。

また、市場で流通している冷凍野菜の大半は原料価格を抑えるために旬の時期に獲れたものが使われます。旬の時期の作物は栄養価が高く、年中流通している生の野菜よりも栄養価が高い場合もあるのです。

加えて、冷凍品を作る場合は温度を下げるのみで添加物は必要ありません。
そのため、冷凍品を一概に添加物が入っていると考えるのは誤りです。
(※調理加工食品の冷凍品は色や形の保持のため添加物が入っていることもありますが、これはチルドのお惣菜でも同様です)

このため、市販品の購入は必ずしも避けるべきではないのです。

7. 冷凍を活かして楽しく離乳食期を過ごそう

目が離せない赤ちゃんのお世話と離乳食づくりの両立は、時に調理自体をおっくうにさせがちです。
頑張るあまりに子育て自体が嫌になってしまうこともあるでしょう。

そんなときに、冷凍を活用して手間を省いたり手間を少なくすれば、ゆとりをもって日々を過ごせます。

離乳食づくりにおける冷凍は、選択における洗濯機や乾燥機のようなものです。
使うことを避けるべきものではありません。

赤ちゃんと過ごせる期間は短く、かけがえのないものです。
冷凍を上手に活用することで、離乳食づくりの負担を減らし、ゆとりをもって笑顔で過ごしましょう。